日本特有ともいえる「年金制度」とは、基本的には20歳になると加入することになっています。 そしてその年金制度には、「国民年金」と「厚生年金」の2種類があることもよくご存知かと思います。 では、「国民年金」と「厚生年金」の違いを正しく理解をされていますでしょうか。 老後の資金源の一つとなる、この2種類の年金制度についてわかりやすくご説明しましょう。
そもそも年金って?
冒頭で老後のためと言いましたが、この年金制度とは、現在払っているお金を国が預かってくれ、将来それが戻ってくるといった「貯金」とは違います。 現在払っている年金は、現在の高齢者のために使われているんです。 つまり自分たちが高齢者になったとき、自分たちを支えてくれるのはその時年金を納めている方たちとなります。 例えると、町内のご老人を町内会の皆さんで見守りをしたりお世話をしたりするといったイメージでしょうか。 若者が多い町なら一人ひとりの負担は軽いですが、過疎化の進んだ町ではそう楽な話ではありません。 まさに今の日本は、高齢者数と現役労働者数のバランスが崩れ過疎化が進みつつある状況と言えます。 少し頭の良い方なら「世代バランスが逆転したら自分たちのときには年金が支払われない」と考える方もいるでしょう。 しかしこれはちょっと違うんです。 確かに年金支給額は今よりも減額しているかも知れません。 しかし年金の半分は様々な税収で賄われているので、現役時代に年金を納めていないと、その他で払ってきた税金ももらえなくなるということなんです。
そして年金の加入者は、「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」と分けられます。
- 「第1号被保険者」とは、タレント・スポーツ選手・個人事業主・学生・無職など
- 「第2号被保険者」とは、会社員・公務員(厚生年金対象)など
- 「第3号被保険者」とは、第2号被保険者に扶養されている20歳から60歳未満の配偶者(所得制限あり)
会社員の夫を持つ兼業主婦の場合、年収が130万未満であれば「第3号」で、130万以上なら第2号もしくは第1号となるわけです。 少しは年金に関心を持っていただけたでしょうか。 ではいよいよ、「国民年金」と「厚生年金」の違いについて説明しましょう。
「国民年金」って?
国民年金とは、別名「基礎年金」ともいわれ、年金制度のベースとなるものです。 対象は、20歳以上60歳未満の日本国民となります。 なので、20歳になると住民票のある住所に納税通知書が届くわけです。 このときにすでにどこかに勤めていたときは、その勤め先の年金制度が適応されますが、そうでない場合は、この通知を元に国民年金を支払わなくてはなりません。
払わないとだめなの?払わないとどうなるの?
ここで簡単な問題です。
納税通知書がきたら、いかなる事情があろうと明記された金額全額を支払わないといけないのでしょうか。
答えは「いいえ」です。
学生であったり無職であったりした場合、支払うための収入がありませんよね。
仕事をしていても、生活を維持するための最低限の収入しかないという場合もあります。
その場合には、役所で相談すると支払いが免除になったり減額してもらえます。
ただしこの場合、必ず手続きをしておかないと後でとっても困ったことになってしまいます。
どう困るのかというと、後々の年金支給額に大きく影響してしまうのです。
令和2年度の国民年金における満額支給額は78万1700円です。
これを毎月分割で支払われるわけですが、この「満額」というのが問題なのです。
満額とは、20歳から60歳までの40年(480ヶ月)間、毎月払い続けた場合の金額です。
未払い期間がある場合は、その期間分だけ支給額が減っていくわけですが、
支払い免除の手続きをした場合、支払ったことにはなりませんが、10年間支払の猶予がもらえるんです。
多少の余裕ができたときに未払い分を払えば、より満期払いに近づくということですね。
2019年度の国民年金の支払額は、毎月16.410円となっています。
手続きをしない場合はわずか2年しか猶予期間がないので、この8年間は大きな違いですよね。
何年払えばいいの?
1回でも支払い事実があれば将来年金を受け取れるのかというと、そういうわけではありません。
将来年金を受給するためには、最低支払期間を覚えておいてほしいと思います。
以前は、最低でも25年間支払期間がないと受給資格がもらえませんでした。
これが見直され、2017年8月以降は10年間と期間がだいぶ狭まりましたが、それでも最低期間があることは覚えておいてください。
ちなみに、ご自身の年金支給額の計算方法は
「781.700(現満額)×(加入月÷480)」
ご自身の加入年月がわからない場合には、
厚生労働省の「ねんきんネット」で調べることができます。
https://www.mhlw.go.jp/nenkin-net_kakunin/index.html
こちらで必要な情報を入力すると、最新の年金情報がわかります。
その他見込額の試算もできるので、一度見てみるといいかもしれません。
「厚生年金」って?
国民年金が年金のベースであるなら、「厚生年金」とはどんな位置づけなんでしょうか。
年金制度の区分けで行くと「第2号被保険者」が厚生年金対象者です。
そして一言でいうと、「厚生年金は国民年金に上乗せする年金」ということです。
仮に国民年金を満額支給されたとしても、月に約5万5千円では暮らしていけませんよね。
そこで「厚生年金」の出番です。
ベースとなる国民年金に、所得に応じて厚生年金をプラスすることで無理なく将来の支給額を増やせるというもの。
支払額を増額するのになぜ無理なくと言えるのかというと、それは厚生年金の支払い方法にあります。
厚生年金と国民年金の違い
国民年金は支払通知がくるのに対し、厚生年金は給料から天引きされます。
よく貯金ができない人におすすめの方法として「先取り貯金」という方法が紹介されたりしますよね。
銀行に給料が振り込まれたとき、自動的に別口座に定額を移動するようにしておきます。
すると貯金額を引いた金額で生活を収めるようにすれば、無理なく貯金ができるというものですね。
厚生年金もこれと同じような感覚で、すでに引かれた金額が給料として振り込まれるので、無意識に年金を支払っていることになるんです。
そして厚生年金と国民年金で大きく違うのが、国民年金は全額個人で支払いますが、厚生年金の場合は半分は企業等が負担をしているということ。
給料明細に記載されている厚生年金額は、あくまで個人での負担額が明記されています。
しかし個人の名義として国に納めた金額はその倍になるので、受給額もそれだけ多くなるわけです。
どれほどの金額が受給されるのかというと、その人の所得によって誤差はありますが、近年の国民年金と合わせた受給額の平均は、約15万円と言われています。
仮に住宅ローンやその他負債がない夫婦2人で合計30万の支給であれば、十分暮らしていけそうですよね。
この「夫婦合計で」というのも、厚生年金ならではの特徴といえます。
国民年金は、夫婦・世帯主などは関係なく個人個人で支払いする必要があります。
ところが厚生年金の場合、配偶者の分は無料で同額の権利を受けることができるんです。
夫が会社員として厚生年金を納めていた場合、その妻は夫の会社で加入している厚生年金に、無償で加入することができ、夫と同じ期間だけ支払い済み期間としてカウントしてもらえるんです。
忘れてはいけない「130万円の壁」
ただしこれには条件があり、妻の年収が130万円以下であるということが重要です。
仮に妻が130万円以上の収入を得るのであれば、妻も厚生年金のある企業に就職することをおすすめします。
この就職というのも、必ずしも正社員でなくてはいけないわけではありません。
以下の条件に当てはまる場合は、パートやアルバイトであっても厚生年金に加入できます。
- 1周間の労働時間もしくは、1ヶ月の労働日数が正社員の3/4以上である
- 週20時間以上労働・年収106万以上・1年以上の雇用・従業員501名以上の企業に就労・学生でない
仮に130万円以上の収入があって扶養から外れてしまう場合は、勤務先や仕事の時間について、これらを考慮してみてはいかがでしょうか。
今回ご紹介した年金制度は、誰もが加入しなくてはいけなかったり、条件下で強制的に加入されるものです。
この他にも、任意で加入できるものや更に手厚い老後資金の確保の仕方などもあります。
将来の生活のための大切な制度なので、正しい情報を手に入れた上で、上手に活用していただきたいと思います。
しかしそのために現在の生活に支障が出てしまうようでは本末転倒ですよね。
わたしたち専門家は現在の生活は守りつつ将来に備えるための方法をみなさんと一緒に考えていきたいと思っております。
少しでも不安なことがあるようでしたら、お気軽にぜひ一度ご相談ください。
【参考文献】
- ■厚生労働省「公的年金の意義」
- ■日本年金機構「20歳になったら、どのような手続きが必要ですか?」
- ■日本年金機構「公的年金の種類と加入する制度」
- ■日本年金機構「厚生年金保険料額表」
- ■日本年金機構「・昭和16年(女性は昭和21年)4月2日以後に生まれた方は、60歳から65歳になるまでの間、生年月日に応じて、支給開始年齢が引き上げられます。」
- ■厚生労働省「平成29年(2017年)度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- ■厚生労働省「教えて!公的年金制度 公的年金制度はどのような仕組みなの?」
- ■国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度
- ■国民年金保険料の産前産後期間の免除制度