老後の資金確保の手段の1つとして、日本では「年金制度」というものがあります。 一定の年齢に達すると国から支給される資金のことで、老後の生活を支える上で大変ありがたいものです。 しかし最近では、「年金が本当に受給されるのか」「されても微々たるもの」という考えの方も増え、 国民年金支払い対象者の約3割が未払いとなっているのも現状です。 一見もっともな考えのような気もしますが、実はこれには大きな落とし穴があるんです。
日本の年金制度は2階建て住宅のようなもの
年金と聞くと、国民年金と厚生年金というのがまず浮かびます。 国民年金とは個人的に支払うもので、厚生年金は企業と分割して給料から天引きされているものと理解している 方がほとんどでしょう。 概ねそのような考え方であっていますが、ここに一つ加えてほしい考え方が「年金とは2階建て住宅のようなもの」というもの。 1階部分が国民年金で、2階が厚生年金と考えてください。 1階部分が極端に狭く、2階部分が柱もなしに大きくせり出している住宅なんてないですよね。 厚生年金を払うということは、国民年金における支払期間を満たしているということにもなります。 つまり、国民年金が年金制度の基礎となっているということなんです。 その基礎部分が歯抜けだったり抜け落ちた状態が「未払い」となります。 では、「未払い」が続くと将来にどのように影響するのでしょうか。
国民年金とは?
国民年金の未払いの怖さをご説明する前に、基本的な年金についてのお話をしましょう。 国民年金とは、国内に暮らすすべての20歳以上の方が加入することになっています。 企業に属した場合は、その企業が加入している厚生年金に加入先を変更することになりますが、 そうでない場合には、個人的に支払いが発生します。 支払った年金は将来返ってくるといいますが、これはそれぞれが払ったものを貯蓄しているわけではありません。 現役労働者が支払った年金は、現高齢者へと支給されます。 出生率が下がり、高齢者と現役労働者の人数の割合が逆転しつつあるという現状から、 現在年金を納めても、将来自分たちが受給者になったときに現役労働者の数が少なければ受給がないのではないのか? そんな不安もあり、年々支払い率が低下しているのも事実です。
そこで今までは25年間の支払い期間がないと受給されなかったものを、10年の支払期間があれば最低限の受給をする というように法改正がなされました。 なぜここまで支払い率をあげたいのかというと、やはり財政面での確保もあるでしょうが、 受給する側のメリットが大きく関係しているんです。
年金とは基礎年金だけではない
国民年金や厚生年金を支払って、将来65歳以降受け取れるのは「老齢年金」と呼ばれるものです。 多くの方が心配している、受給金額の低下を指すのもこの「老齢年金」のことですね。 しかし年金とはこの「老齢年金」だけではありません。 一定の障害をうけ、生活が困難となった場合に請求できるのが「障害年金」です。 障害を受けた状態や障害の度合いにもよりますが、例えば労災などは一時的に生活を救済してくれてもあくまで一時であって、将来的な生活の不安は拭いきれませんよね。 また死亡した際に一定の遺族に支払われるものが「遺族年金」と呼ばれるものです。 まだ働き盛りの世帯主がなくなった場合、残された家族にとってこの「遺族年金」は大変重要なものとなります。 しかしこれらも年金制度の一環なので、「保険料納付要件」という条件があり、 年金の支払期間があまりにも短い場合には請求することができない可能性が出てきてしまうのです。 年金を考えるとき、このようなことにまで考えを巡らせている方は少ないのではないでしょうか。 万が一のときのため、年金の支払いは大変重要となってきます。 それでも支払いを拒否した場合は、現在の生活にとって大きなデメリットとなることもあるんです。
年金滞納は生活を破綻させる?
「障害年金」や「遺族年金」が仮に受け取れなくても、民間の保険会社で同等の保障がある保険に加入している。 そういった方ももちろんいらっしゃるでしょう。 しかし年金の未払いは、そんな将来やもしものためのではなく、今の生活を狂わせてしまうかもしれません。 そんな年金未払いに潜む、大きなデメリットをご紹介しましょう。 仮に年金の支払いを拒否し続けた場合、どうなるのかを見ていきましょう。
まず年金の支払明細が届きます。 これを無視します。 すると催告状が届き、電話でも支払いを促すような連絡がきます。 これも無視します。 後に最終催告状が届きます。 これも無視します。 差し押さえ処分予告の督促状と支払金額に遅延金が追加されます。 これも無視します。 現金・預貯金・給料・財産の強制差し押さえが執行されます。
ちなみに催告状とは「特別催告状」といい、段階によって封筒の色が違います。 最初はブルーの封筒。それから黄色、ピンクと信号機のように色が変化します。 当然ピンクの封筒が届いたときにはレッドゾーンということですね。 さすがに差し押さえなんて早々ないだろうとお思いかもしれませんが、 平成29年度の財産差し押さえ件数は、なんと1万4.344件にもおよびました。 以前はそんなことなかったとおっしゃる方もいるかも知れませんが、 日本年金機構が平成26年度から、強制徴収の取り組みを強化したためこの様になったようです。 今一度ご自身の支払状況を確認してみてはいかがでしょうか。
支払いが困難なときは
結末がかなり悲惨なことになるのはわかっていただけましたでしょうか。 そうはいっても、先立つものがなければ支払いはできません。 そんなときに役立つのが「保険料免除制度」や「保険料納付猶予制度」です。 同じ支払いをしないであっても、「未納」と「免除・猶予」では大きく違います。
一定の条件(所得制限等)はありますが、支払いが難しい場合は役所に届け出をします。 すると、「全額免除」「3/4免除」「半額免除」「1/4免除」などの免除が受けられたり、 学生期間中は支払いが猶予されたりします。 きちんと届け出ることで、支払いを指定なくても納付期間としてカウントしてくれるので、 将来の受給金額の試算にも影響してきます。 もちろん実際には納付していないので、それぞれ受けた制度によって金額が減額されてしまいます。
未納期間と受給額の関係
支払期間が10年あれば、最低限の年金は受け取ることができるとお話しました。 厚生年金は国民年金のプラスアルファであるため、個人の所得によって将来の受給金額も変わってきます。 そこで、基本となる国民年金のみでの現在の満額の受給額と、未納期間と減額率についてご説明しましょう。 令和元年時での国民年金の満額は、78万100円です。 この金額を元に、実際に加入した月数でわって年間の受給金額を計算します。 78万100円(令和元年度)×加入期間(月数)(保険料納付期間)/480 また、上で説明した「免除」を利用した場合は、その計算方法が少しややこしくなります。
「未納」と大きく違うのがここですね。 たとえ全額免除出会ったとしても、支払期間にカウントしてもらっているので、 全額納付よりも減額はするものの、きちんと支給対象になっているんです。 しかも、届け出をしておくことで後々余裕ができたときに免除部分を「追納」することができるんです。 この「追納」は、未納であっても可能ですが、その期間が「未納」であれば2年なのに対し、 届け出をすることで「10年」と期間もかなり長く見てもらえます。 将来と、もしもの2点を考えると、やはり国民年金は支払っておいて損はない制度だと思います。
今回は「国民年金」についてご説明しましたが、「国民年金、厚生年金の違いって?」では、 厚生年金との関係についても詳しくご説明しています。 大切な老後を安心して暮らすため、ぜひ正しい知識を身に着けておいてください。 もし少しでも分からないや将来への不安などがあれば、ぜひ一度ご相談ください。
【参考文献】
- ■厚生労働省「公的年金の意義」
- ■日本年金機構「20歳になったら、どのような手続きが必要ですか?」
- ■日本年金機構「公的年金の種類と加入する制度」
- ■日本年金機構「厚生年金保険料額表」
- ■日本年金機構「・昭和16年(女性は昭和21年)4月2日以後に生まれた方は、60歳から65歳になるまでの間、生年月日に応じて、支給開始年齢が引き上げられます。」
- ■厚生労働省「平成29年(2017年)度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- ■厚生労働省「教えて!公的年金制度 公的年金制度はどのような仕組みなの?」
- ■国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度
- ■国民年金保険料の産前産後期間の免除制度